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学術的情報

免疫システムからの影響を受けている肌フローラと菌の多様性

肌フローラ自体も肌の免疫システムからの影響を受けています。

免疫反応を誘導する働きがある受容体C5AR(CD88)に対する拮抗物質を用いてマウスの免疫反応を実験的に抑制すると、肌フローラの構成が変化し、Actinobacteria属菌が増加しFirmicutes属菌が減少します。さらに細菌の多様性が低下し、肌からの抗菌ペプチドやサイトカインの産生が低下します。

このことは、肌の免疫システムが肌フローラの細菌構成や多様性の維持に重要な役割を担っていることを示します。

表皮ブドウ球菌はヒトの免疫応答に重要

表皮ブドウ球菌はヒトの免疫応答に重要なTLR2受容体を刺激してシグナル経路を活性化し、抗菌ペプチドや前炎症性サイトカインの産生を促し、Group A Streptococcus(A群レンサ球菌、常在菌だが感染症の原因菌になることもある)やヒトパピローマウイルス感染に対する免疫応答を促しています。このTLR2受容体刺激反応は細菌の細胞壁を構成するリポタイコ酸がTLR2受容体を刺激することによって引き起こされ、さらに抗菌ペプチドを作るマスト細胞を周囲に誘導します。一方でリポタイコ酸は角質細胞でTLR3を介した炎症反応を抑制するという働きもしています。興味深いことに、この誘導効果はマクロファージや樹状細胞には影響しません。

美肌菌の表皮ブドウ球菌を実験的にマウスに感染させると、IL17Aの産生が回復

IL17サイトカインは自己免疫疾患、炎症性疾患やアレルギー反応、細菌感染防御に重要な役割を果たしています。

肌において樹状細胞やマクロファージで作られる炎症性サイトカインIL-1の産生増加が起こると、それに続いてIL-17やIFNγの産生が肌のT細胞で生じます。しかしながら、IL1-R1を欠くマウスではIL-1の増加があってもその受容体を欠くためIL17Aを産生するγT細胞およびδT細胞と共存するヘルパーT細胞17(Th17)が減少します。

興味深いことに、表皮ブドウ球菌を実験的にマウスに感染させると、IL17Aの産生が回復します。このことは表皮ブドウ球菌がヘルパーT17細胞を誘導する機能を持っていることを示すとともに、IL17Aを発現するT細胞と同じ機能を持っていることを示すものです。

肌フローラの構成菌であるCorynebacterium pseudiphtheriticum, Propionibacterium acnes, Staphylococcus aureusも肌のIL17A陽性細胞とIFNγ陽性細胞を増やしますが、表皮ブドウ球菌ほどの強度はありません。

さらに表皮ブドウ球菌は肌フローラの中で唯一CD8陽性T細胞を増やすことができます。CD8陽性T細胞はIL17AとIFNγを作り出すことができる細胞で免疫反応を増強する細胞です。このようなIL17Aを作り出すT細胞は肌の免疫バリアを担い、病原細菌の侵入を抑制する役割を担っており、皮膚免疫システムと肌フローラを構成する細菌の密接なつながりが明らかにされています。

皮膚ブドウ球菌の美肌効果

皮膚ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)は皮膚常在菌として知られています。

この菌にはセリンプロテアーゼと呼ばれるタンパク質を分解する酵素を分泌する働きがあり、この酵素によりアトピー性皮膚炎の原因菌となる黄色ブドウ球菌の増殖を抑制することが報告されています。

具体的には、鼻孔内で黄色ブドウ球菌が形成した群落が、皮膚ブドウ球菌の分泌したタンパク分解酵素により破壊されることを報告した研究があります。

 

さらに最近、皮膚ブドウ球菌に肌の保湿作用があることがわかってきました。

この菌を人工的に培養して肌に塗布することを就寝前に週2回を4週にわたって実施すると、肌の脂質が増えて水分の蒸発がおさえられることで肌の保湿力が増すことがわかりました。

このように皮膚ブドウ球菌が肌によい影響を与える働きを持っていることがわかってきたため、別名として美肌菌と呼ばれたり、お肌の善玉菌と認識されるようになっています。

 

Nature. 2010 May 20;465(7296):346-9 [PubMed]

Japanese Society for Investigative Dermatolog August 2015Volume 79, Issue 2, Pages 119-126 [PubMed]

皮膚常在菌としてのアクネ菌とニキビの関係

アクネ菌として知られるPropionibacterium acnesは約100年前に”にきび”から分離された細菌で、今日では皮膚の常在菌として知られています。 アクネ菌はヒトの肌では最も存在量が多い細菌であるため、さまざまな性質について研究がなされています。アクネ菌が増えやすい肌の環境は、肌の皮脂が過剰に分泌される状態と関係していることが知られています。 つまり、動物性脂肪などの脂質を多く摂取している状態が続くと、肌の炎症を促す物質が皮膚へ拡散したときに、肌の角質形成に異常を起こして角栓を作り皮脂の分泌が増えやすくなります。 豊富な皮脂はアクネ菌にとって理想的な生存環境であるため増殖が誘導されます。 特に20才代の若い人ではアクネ菌の存在量とニキビの発生に相関があることが知られています。 一方で、有害な細菌の増殖を抑制する働きもあり我々の肌を守る役割も担っています。 皮膚表面の角質細胞への毒性は低いことがわかっていますし、さらに皮膚の酸性度を調整して弱酸性にする働きがあります。 弱酸性の肌では悪玉菌として知られる黄色ブドウ球菌の増殖が困難になるため、悪性度の高い菌の増殖を抑えることで肌を守る常在菌として重要な役割を担っています。

 

Clin Microbiol Rev. 2014 Jul; 27(3): 419-440. [PubMed]

BMC Research Notes 2013,6:474 [PubMed]

Br J Dermatol. 2008 Mar; 158(3): 442-455. [PubMed]

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